またぐるぐると時計が巻き戻し。今度はサイクリング同好会。開始早々のアバンで愛用の自転車を撤去され、茫然自失の「私」。

ナレーション:なにゆえこんなことになってしまったのか? 責任者に問いただす必要がある。責任者はどこか?

四畳半神話大系 第3話「サイクリング同好会『ソレイユ』」感想

すでに毎回の恒例行事になりつつある入学時のサークル選択(笑)。サイクリング同好会「ソレイユ」を選んだ「私」(声:浅沼晋太郎さん)の今回の甘いイメージはこんな情景。

ナレーション:黒髪の乙女たちとくんずほぐれつのランデブー。
場合によっては二人乗りも辞さない。そう考えていた私は手の施しようのないアホだった。
(中略)
サイクリング同好会は同好会とは名ばかりのガチンコ自転車サークルだった。

えーと、とりあえず二人乗りはダメです(笑)。体育会じゃないのにハードな練習をしている同好会というのも珍しいですが、そういうのもないわけじゃないですね。

高校時代に運動系の部活経験もなく、基礎体力もない「私」。体力勝負のガチンコ自転車サークルには全くついていけない状況。

そして今回の小津(声:吉野裕行さん)とのファーストコンタクト。

ナレーション:(前略)海からあがってきた半魚人のような顔をした男がいた。
「私」   :貴様ーすみやかに海に帰れ!
小津    :あなた、ひどいことをおっしゃる。ぼくはあなたの同士ですよ。
ナレーション:これが小津とのファーストコンタクトでありワーストコンタクトでもあった。

さすがに3回目ともなると「小津はなぜ毎回必ず『私』と同じサークルに入っているのか? 」と疑念がわきましたが、実はその理由はあるんですね。

小津が部室にほとんど顔を出さない理由も最終回にわかりますよ。

今回も小津は樋口師匠の弟子。「私」の下宿の2階に住む「師匠」を訪ねるついでに、しょっちゅう私の下宿に訪ねてきます。

そして今日の「私」と小津の仲良し会話(笑)。

「私」:うるさい!お前のように無意義に過ごすつもりはないんだ!
小津:ひどいなあ、私は無意義な学生生活を力いっぱいエンジョイしているのです。
   とやかく言われる筋合いはございません。
帰れ! 私の足を引っ張るな!

小津は大学時代の無意義さを理解して楽しんでいるようです。実際大学生活というのは卒業して就職してから思い出すと「(今思えば)すごく無駄に過ごしてきたな…」と多少の後悔をもって振り返ることが多いもの。

もっと勉強しておけばよかったとか、長期旅行をしておけばよかったとか、恋人を作っておけばよかったとか、いろんな意味で(笑)。

でも大学時代の時間の無駄遣いは後々役に立つこともあります。時間を無駄に使えるのは、大学時代が最後みたいなものですから。

小津のように大学時代に人脈を広げるのも社会に出てから役に立つことがあるから、無駄とばかりはいえないんですよねー。

非力な体力をマシン・スペックで補うことを思いついた「私」は学業そっちのけでバイトに励み、ついに友人知人に借金までして考えうる限りのフルスペックマシンを入手。

安易に選んだ同好会でも、安易に辞めず、なんとか現状打破を試みるのが「私」の美点であり、欠点(笑)。

その超軽量究極ロードバイクでしまなみ杯優勝を夢見ていたものの(笑)が、怪しげな配達バイトの途中で駐輪した際に、違法駐輪自転車を取り締まる謎の自治サークル「自転車にこやか整理軍」に撤去されてしまうのでした。

またその「自転車にこやか整理軍」の手並みがすごい。駐輪スペースのない家の門扉にU字ロック(?)でくくりつけた自転車のロックを、油圧カッターで切って回収する鮮やかな手口。恐るべし「自転車にこやか整理軍」。

「キャンパス内の自転車をひたすら整理するボランティア団体」がなぜか路線変更。

ナレーション:ちょっとでも駐輪スペースを出た自転車を強制的に撤去し、その自転車は二度と返ってこない。

…こわい。(地方か都会かによっても異なると思うけど)大学生ともなると自動車や単車を足にする人もいるけれど、広いキャンパスの移動や日常の足はやはり自転車が多いはず。自転車とはいえ迷惑駐車はいけないけれど、二度と返ってこない撤去というのはこわい。

小説の中の話とはいえ、一大学のボランティア組織が京都全域にまで勢力を拡大できるわけないじゃんと思いつつ、あったらこわいレベル。

フルスペックマシンを失った「私」は、入学当初大学生協で買ったママチャリのマナミ号でしまなみ杯に出場。ところがさらにアクシデント発生。「私」だけスタート時間から4時間遅れの出発に…。

「しまなみ杯」は広島の尾道 - 愛媛の今治までの「しまなみ海道」を自転車で走破するロードレースという話だったけど、検索してもそれらしいのが出てきませんでした。実際には存在しない架空のレースなのかな?

途中で夜になり、もう行くだけ無駄だとわかっているのに、意地でゴールを目指す「私」。結局ママチャリでゴール地点まで行って、京都まで戻るという不毛な結果を残すことに。

そのことを知った明石さん(声:坂本真綾さん)が「私」をバードマン・サークルにスカウト。

明石さん:何もしなくてもかまいません。ただ先輩のその体でパイロットになってくださいませんか?

そのシーンで、なんと明石さんと夢の二人乗り!! ペダルを漕いでいるのが明石さんで、後ろに乗っているのが「私」というのが少々しまらないけど(笑)。

なにかもうフラグが立ってる気がする!! 今度こそ明石さんと上手くいくのか「私」!?

今回の明石さんは、元サイクリング同好会「ソレイユ」出身でロードレースの優勝経験者。現在はバードマン・サークルのエンジニア(飛行機の設計担当)。ロードレースの優勝賞金もつぎこむほど情熱を注いでいる状況。

バードマン・サークルはその名のとおり、鳥人間コンテストを目指すサークル。飛行機の設計から、実際に飛ぶところまで。

ちなみに、「私」に会ったときのバードマン・サークルの部長(声:本田力さん)の言葉。

部長:なるほど。実に頼りない体をしている。そういう人こそ鳥人間にはふさわしい。

ひどい言われよう。でも、

部長:できるだけ貧弱な体がパイロットには不可欠だ。

口は悪いけど、褒めてるつもりのようですね。

鳥人間コンテストといえば、落ちるために飛ぶようなコンテスト。人力飛行機ですから、どう上手くいっても最後は琵琶湖に落ちる運命。

パイロットを引き受けるべきか、受けざるべきか。逡巡する「私」。

思い出すのは去年の春の蹴上(けあげ)のロードレースの途中で明石さんと交わした会話。

そして木屋町の占い婆の言葉「…好機はいつでもあなたの目の前に…」。

バードマンコンテストに出場して見事に落下を決めて、そのあと明石さんと…と妄想しつつ、はたと正気に返る「私」。

ナレーション:ここでおめおめと未来を下方修正していいのか?
      太陽を目指すことなく地上でのうのうと暮らしてなにがイカロスか。
      それではただの羽が目障りな男ではないか!

一念発起して城ヶ崎先輩(声:諏訪部順一さん)に特訓してもらう「私」。城ヶ崎先輩へわたりをつけたのはおそらく小津。

城ヶ崎先輩と小津の関係については、4話で明らかになります。

ナレーション:私は決めたのだ。誰よりも遠く、誰よりも高く飛翔してみせる!
   そして優勝した暁にはマナミ号の後ろに明石さんを乗せてインクラインの桜を見に行くのだ!

城ヶ崎先輩はただのおっぱい大好き人間(笑)ではなく、特訓大好き人間でもあるようです。

この回でごくごくわずかに城ヶ崎先輩が樋口師匠との確執について語ってますね。

「私」のトレーニングを横目に小津が食べてる果物が、桃からスイカに変わって、さらに祇園祭の季節到来。

しかし特訓で筋肉をつけてしまったために、明石さんの飛行機のパイロットはできなくなってしまいました。筋肉は重いですからね。体重が増えたはずです。

筋肉がつく前に「私」用に図面を引いた飛行機は使えなくなり、明石さんはパイロットに明石さんに変えて飛行機の図面の引きなおしをせまられることに。

現実の鳥人間コンテストって7月下旬頃らしいけど、祇園祭(=7月)に入って図面の引きなおしからというのは果たして間に合うのか!? まあ架空のお話だからアリかも(笑)。

明石さんの期待にこたえられなかったと事を謝る「私」に、

明石さん:いいえ、むしろ期待にこたえられすぎてしまいました。

…やさしい。

実は明石さんの説明不足が悪いんですよ。もっときちんと説明していれば「私」トレーニングはしなかったはず。

明石さんが「まさかトレーニングまでしてくださるとは」と驚いたのには理由があるのです。この時点では、明石さんのセリフの意味は「どうせ落ちるのにトレーニングまでするとは」だと思っていたのですが、理由は今日のオチで明らかになります。

トレーニングが無意味である明確な理由があるのです(笑)。

傷心のまま、蹴上のインクラインへ足を運んだ「私」。

ナレーション:願わくばここへ明石さんと来たかったが
      薔薇色のキャンパスライフが遠ざかっていくように思われ、私は心の中で泣いた。

切ないです。

しかし、そんな切ないムードを破って、「自転車にこやか整理軍」の幹部であるコートの男が明石さんの飛行機を回収(?)して登場。

コートの男の正体は小津。「私」のフルスペックマシンの回収、明石さんの飛行機の強奪。全ては小津の仕業? どういうことかと小津に詰め寄る「私」。

小津:私なりの愛ととらえてくださいよ。
   あなたはどうやったって今みたいな有様になっちまうんですから。
      (中略)
   我々は運命の黒い糸で結ばれているというわけです。

これはひどい…。ヤバイ秘密をペラペラしゃべって、逆に「私」を丸め込んで整理軍に勧誘する小津。話がまとまりかけたところ、明石さんが追ってくることに気づいた小津は「私」にコートを着せて退散。

小津:整理軍のこと口外しないでね。命あぶないですから。

これ、「明石さんたちに自転車にこやか整理軍の関与がバレたら、バードマン・サークルにボコられて命危ない」ではなくて、「飛行機の処分先が外部に漏れたら、(整理軍もしくは飛行機購入先の人達が動いて)あなたの命が危ないですから」ですね。かなり危険なかんじ。

そこにやってきた明石さん。自転車整理軍のコートの男=「私」と誤解して口論になりかけるも、固定されていた飛行機がはずれて走り出す…。

ここでようやく明らかになる「トレーニングが不要だった」理由。

ナレーション:ようやく気がついた。それがまさに不毛な努力であった。

主人公の「私」だけでなく、私もすっかり騙されてました(笑)。

ラストの

ナレーション:イカロスは、無闇に羽ばたかなければ風に乗っていただろうか?

が実に意味深でしたね。同好会の名前の「ソレイユ」はフランス語で太陽。ギリシャ神話のイカロスの話がでてくるのもわかりますね(笑)。


今回小津は友人を陥れる悪魔のような人間でしたが、回が進むにつれ明らかになる裏事情を考えればわりと納得がいく行動ですね。

樋口師匠は世界一周旅行に旅立つための資金が必要で、その手助けのために小津はロードバイクを手配した。それがたまたま(?)「私」のロードバイクだったというわけ。

「自転車回収の一つ一つに関与していない」と小津は言っていたけれど、これがどこまで真実かというのはやや疑問ですけどね。

小津は何度も「私」の下宿を訪ねているから、「私」の超軽量ロードバイクの事は知っていたはず。狙って回収したのか、偶然だったのか…?

小津ならもし回収されたロードバイクを見て「私」のものだと気づいても、今更返せないしどうせなら師匠の役に立てた方がいい。と合理的な判断をしそうです。


そして今回明石さんについてわかったことは、明石さん自身もバードマン・コンテストのような「不毛な事(最終的に落ちて壊れるための飛行機を作る事)」に情熱を注げる人。だから、「私」の不毛な情熱についても理解し、受け入れてくれる人なのだということ。

無駄に真面目で無駄に頑固で無駄に不器用な「私」とは、けっこういい関係になれそうですね。

小津が第1話で言っていたのは、そういうことでしょう。

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