「脚本 コクリコ坂から」という名の本は2つ発売されてます。1冊はハードカバーの単行本仕様。もう1冊は文庫本。
どちらもスタジオジブリの「コクリコ坂から」の脚本が載っているのですが、それ以外のオマケコンテンツの内容が違います。
なのに、amazonのレビューはどちらも同じレビューが載っていて、違いがわかりにくいです。
文庫本の方は安いですが、脚本以外のオマケが少ないので要注意。
今回はハードカバーの方の「脚本 コクリコ坂から」の感想です。
<追記>以前書いた感想はどうもしっくりこなかったので、2013年5月11日に全面的に書き直しました。
では内容紹介と感想。
- 宮崎駿「コクリコ坂から」イメージボード、レイアウト30ページ
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「コクリコ坂から」の監督は宮崎駿さんの息子の宮崎吾朗さん。宮崎駿さんはアニメの脚本としての参加なのですが、やっぱりイメージボードは描いてます。
ストーリーの根幹を担当しているから、宮崎駿さんが「コクリコ坂から」のイメージの説明のためにイメージボードやレイアウトがあるのは自然とも言えます。
うがった見方をすれば、「やっぱり宮崎駿さんの絵があった方が、関連書籍が売れるよね! 」というかんじ(笑)。
とにかくこの本には関東のカラーページに宮崎駿さんのイメージボード、レイアウトがあわせて30ページ載ってます。
ジ・アートとは見比べてないのですが、ロマンアルバムと見比べてみたらほとんどロマンアルバムに載ってる絵でした。ロマンアルバムには載っていない絵がほんの一部ですがありますね。
この本では1枚の絵が本の見開きで載っているので、絵の大きさが大きくて見やすいです。その反面、本の真ん中部分は見えにくいので、絵の全体図は把握しにくいかな。
というわけで「コクリコ坂から(ロマンアルバム)」を持っている人が、宮崎駿さんの絵目当てで買うほどではないという印象ですよ。
あと、シナリオミーティングの写真も1枚載ってますよ。
- 企画のための覚書「コクリコ坂から」について 「港の見える丘」 宮崎駿
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「コクリコ坂から」のために宮崎駿さんが書いた企画のテーマと言うか、目的をまとめたような文章。
ジ・アートにも同じものが載ってます。
これを読む限り、宮崎駿さんは「コクリコ坂から」を「ちょっと昔の物語」としてますが、ノスタルジー映画として作る気はなかったように見えます。
でも出来上がったアニメ「コクリコ坂から」を見ると、妙にノスタルジー臭く作られてるかんじで。
その理由はロマンアルバムの宮崎吾朗監督のインタビューを読むと何となくわかりました。
正直私もどちらかというと世代的に、宮崎吾朗監督の言う事に共感できます(笑)。
いくら当時を知る70代(「コクリコ坂から」の脚本が頃の宮崎駿さんはぎりぎり60年代後半ですが)が脚本を描いても、40代には同じ視点はもてません。かといって、よくわからない物を大幅に手直しできるはずもない。
「この時代の人間はこういう考え方や行動をしたんだ。これが当たり前だったんだ!!」と言われれば、引き下がるしかありません。だって知らないんですから。
そのへんの作り手のズレがこの作品の微妙さにつながっている気がします。
吾朗さんのアニメは前回も説明不足だったから、今回もそうなんだよ!! と言われれば、「そうかも? 」とは思いますが(笑)。
- 脚本「コクリコ坂から」宮崎駿・丹羽圭子
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アニメ「コクリコ坂から」の脚本です。小説ではなくて脚本形式になってます。
シナリオミーティングで宮崎駿さんが出したアイディアを、丹羽圭子さんがストーリーにまとめていく形で作られた脚本。
解説はついていないので、脚本の形のストーリーをそのまま読むようなかんじです。
この脚本ですが少女マンガが原作にも関わらず、主人公・海をはじめ登場人物の心情描写がほとんどありません。
それと、脚本をアニメの絵コンテにする段階で、話の順序がいくつか変更になってます。
脚本の方がわかりやすい部分と、脚本を補完している絵コンテの方がわかりやすい点などもあります。比べてみると少し作品としての印象が違うので、アニメと比べてみると興味深いです。
それはいいとして、この「コクリコ坂から」の脚本はかなり強引な印象。
脚本は絵コンテと違って絵がない分、都合のいい脳内補完の余地があります。その分、絵コンテよりもいい印象を受けますけどね。
「どんな時代にも変わらない物を、若い人に贈りたい」というわりには、「この時代を知らない私には、理解・共感しがたいのだろう」と思える物語。たしかに私は「若い人」ではないので、対象外なんでしょう(笑)。
ただ、ラストだけは中高年にとって感動的。ラストまでの過程は全て忘れて「終わりよければすべてよし! 」と丸めこまれるのもアリでしょう(笑)。
- 天才の思考過程 「脚本 コクリコ坂から」ができるまで 丹羽圭子
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宮崎駿さんと丹羽圭子さんのシナリオミーティングの話を、丹羽圭子さんがまとめてます。丹羽さん視点の脚本メイキング話。
宮崎駿さんがいろんなアイディアを出して、ストーリーとの兼ね合いも考えてエピソードを付け加えたり、まとめたり。ホワイトボードのメモ書きの写真も掲載。プロットやシーンを説明しているところで、脚本内では語られていないキャラクターの心情なども少し語られています。
海の母親・良子は、娘の海から「もしも俊が父・雄一郎の隠し子だったら? 」と聞かれて何のためらいもなく「会いたいわ」と言えた理由もここに書かれてました。
まあ宮崎駿さんのドリームなんですよね(笑)。
話は脱線しましたが、この文章を読めば最近の宮崎駿脚本の作り方がわかりますよ。「借りぐらしのアリエッティ」も「コクリコ坂から」も同じような手法で作られた様ですから。
個人的には、もう正直最近の宮崎駿脚本にはついていけません(笑)。
- 『コクリコ坂から』(高橋千鶴・作)/ぼくの少女マンガ体験 宮崎駿
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「コクリコ坂から」の原作マンガとの出会いや、少女マンガについての宮崎駿さんの文章。
ナウシカの映画の頃の話とか、かなり昔の思い出話になってます。
「Comic Box」1991年1月号に掲載された文章の再録らしいので、読んだことがある人もいるでしょう。
- 『コクリコ坂から』映画化にあたって 佐山哲郎
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マンガ「コクリコ坂から」の原作者の佐山哲郎さんのエッセイ。こちらは2011年春に書かれた文章。
高階良子さんの「タランチュラのくちづけ」の原作者だとあったので、「高階良子さんか…私のトラウマ漫画『レムリアより愛をこめて』じゃないからいいか」と思いつつ調べてみたら「レムリアより愛をこめて」も佐山哲郎さんでした(笑)。
「少女向きのストーリーを作るのは大の苦手」と書かれていましたが、「タランチュラのくちづけ」「レムリアより愛をこめて」はいろんな意味で少女マンガしてましたよ(笑)。高階良子さんの怪奇ストーリーものという点で、少女マンガとしては異色作品なのかもしれませんが。
まあそれはさておき、打ち切り漫画「コクリコ坂から」の反省とか、映画化への期待とか。そんな文章でした。
と、まあこんなかんじの内容と感想です。
脚本はジ・アートのアフレコ台本か、絵コンテ集でほぼ代用できます。宮崎駿さんのイメージボードもロマンアルバムやジ・アートで見ることが出来ます。
というわけで、1冊も関連本を持っていないならいざ知らず、ライトなファンがわざわざ手を出すものでもないかなあと思います。
とはいえシナリオミーティングの話は面白いので、興味ある人は読んでみてもいいかもしれませんね。
脚本について、宮崎駿さんの意図がより深くわかる本です。
- タイトル:脚本 コクリコ坂から
- 出版社・発売時期:徳間書店(2011-06-11)
- ページ数:173
- 総合評価:
内容紹介
- 宮崎駿「コクリコ坂から」イメージボード、レイアウト集
- 企画のための覚書「コクリコ坂から」について 「港の見える丘」 宮崎駿
- 脚本「コクリコ坂から」宮崎駿・丹羽圭子
- 天才の思考過程 「脚本 コクリコ坂から」ができるまで 丹羽圭子
- 『コクリコ坂から』(高橋千鶴・作)/ぼくの少女マンガ体験 宮崎駿
- 『コクリコ坂から』映画化にあたって 佐山哲郎
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