風の谷のナウシカ(ジブリの教科書1)感想

文春文庫から順次刊行されている「ジブリの教科書」シリーズ。とりあえず1冊目の「風の谷のナウシカ」読みました。

「ジブリの教科書」というから、作品解説書かと思いましたが、ちょっと違う印象。

中身は、

  • Part1.映画『風の谷のナウシカ』誕生
  • Part2.『風の谷のナウシカ』制作現場
  • Part3.作品の背景を読み解く

の3部構成。

「アニメージュ」「ロマンアルバム」「風の谷のナウシカGUIDEBOOK」「風の谷のナウシカ 宮崎駿 水彩画集」「劇場用パンフレット」その他、当時の新聞記事などに加筆修正したような再録記事がけっこうあります。

Part2の制作現場の内容は、絵コンテ解説以外は全て再録記事。

制作スタッフの新規書き下ろし文章は、プロデューサーの鈴木敏夫さんの「汗まみれジブリ史」のナウシカ制作秘話18ページくらいかな?

というわけで、「風の谷のナウシカ」に関してたくさんの本を読んできた人には、ナウシカ制作に関する目新しい内容はないかもしれませんね。

再収録が多いというと何か損したような気分になるかもしれませんが、手抜きというわけではありません。

テーマに沿って、昔のインタビューなどから情報を再構成してます。昔の雑誌やら関連本を今更自力で全部読みあさるヒマがない人には便利です。

元の情報は1980年代当時の物であっても、この本のために再編集したなら、そこには2013年の視点が入ってます。

巻頭の8ページはカラー。立花隆の選ぶ「風の谷のナウシカ」名場面集。

本文にも「風の谷のナウシカ 宮崎駿 水彩画集」から抜粋したイラスト集や、当時の宣材(劇場ポスター、前売り券など)はカラーで収録されてます。

けれどそれ以外は、原画も写真も絵コンテも全て白黒ページ。

ビジュアル系のメイキング資料を見たい人は、それこそネタ元の水彩画集とか型録とかを見た方がいいと思います。

私が見た限り、ビジュアル資料に関しては目新しい物はありませんでした。

そういう意味では、私にとっては星少なめの内容でした。

では「この本独自コンテンツは? 」というと、評論・考察系の記事になります。どちらかというとアニメよりですが、原作漫画の内容も含めての評論記事。

立花隆さん、椎名誠さん、佐藤優さん、大塚英志さんなどの作家・評論家の評論から、女優・満島ひかりさん、漫画家・伊藤理佐さんのエッセイ系。かと思えば、内田樹さんみたいな大学教授や准教授の語るお堅い話まで。

いろんな人が、いろんな側面から「風の谷のナウシカ」を語ってます。

堤中納言物語の「虫めづる姫君」や「オデュッセイヤ」などの古典をひっぱりだしてきたり、腐海の生物学を学術的に語ってみたり。

そういう読み物に興味がある人には面白いと思いますよ。

ちょっと堅い文章もありますが、雑誌「ユリイカ」あたりが読める人なら問題ないでしょう。個人差あるでしょうが、大学生くらいなら十分かと。

個人的に面白かったのは、鈴木敏夫プロデューサーの「“賭け"で負けてナウシカは生まれた」と、対談の「高畑勲×宮崎駿 映画『風の谷のナウシカ』基本設定について」。

「高畑勲×宮崎駿」は、「アニメージュ」と「映画を作りながら考えた事」からの再収録。

読んでて思った事。宮崎駿さんはアニメに関して語る時は、単独インタビューで好きに語ってるよりもアニメ関係者との対談の方が面白いですね。

単独インタビューだと、インタビュアーが年下なのか門外漢だからか「ご高説を賜ってる」感があって、質問内容もテンプレ的。

アニメ関係者との対談だと、わりと面白いツッコミや面白い切り口で語ってますね。部外者(いや門外漢? )には隠せても、仕事上でよく知ってる相手に対しては隠しきれない何かが出てる感じ。

そういえば「風立ちぬ」の鼎談での、庵野英明さんとの会話も面白かったですね。

1984年の映画公開から、すでに30年近くたってます。ナウシカ関連本を読んだ事もない人も多いでしょう。そういう人への入り口としてはイイと思いますよ。

文庫本でお手軽だし、映画公開当時の関連本と比べるとアニメオタク臭が薄い本です。そういう意味では一般向け。

この本を読んで興味がでてきたら、巻末に掲載されている出典一覧から興味ありそうな本をたどっていくのもいいと思います。

読み物が苦にならない人や、作品論・評論好きの人におススメかな。

ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ (文春ジブリ文庫)
  • 出版社・発売時期:文藝春秋 (2013/4/10)
  • ページ数:319
  • 好感度:(3)
  • スタジオジブリ×文春文庫編集のジブリの教科書シリーズ1
  • Part1.映画『風の谷のナウシカ』誕生
  • Part2.『風の谷のナウシカ』制作現場
  • Part3.作品の背景を読み解く
  • …etc.