ジ・アート・オブ 風立ちぬ感想
ジブリのアニメ映画「風立ちぬ」のイメージボード、キャラクター設定画や美術などを楽しめるアートブック「ジ・アート・オブ 風立ちぬ」。
アニメのメイキング工程や、スタッフインタビューもあるし、企画書・映像についての覚書、アフレコ台本もあります。でも、どちらかというと美術本だと思った方がいいです。
内容はざっと以下のようなかんじ。
宮崎駿監督のイメージボード
「風立ちぬ」のイメージボードは宮崎駿監督が描いたものが18枚。と、この本には書いてありました。
きっちり数えてませんが、ざっくり数えたところほぼ全部載っているようです。
いつものようにラフな線で、水彩で色をつけたような絵です。人物、風景、メカニックなどなど。いつも通り、わりと序盤の絵が多いですよ。
NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」の「宮崎駿スペシャル『風立ちぬ』1000日の記録」で、「市井の人々にこだわった」とあったように、市井の人々のイメージボードなんかもありました。
キャラクター設定画
キャラクター設定画は作画監督の高坂希太郎さんの絵です。ジブリ定番の、鉛筆で描いたような白黒の線画ですね。
ポーズ集的な物はなくて、全身と表情集といったところです。
二郎は子供の頃から学生、社会人~ラストまでのそれぞれの世代の設定画があります。菜穂子も子供~成人後など、年代別設定画。
その他、名前がついているキャラクターはほぼ設定画が載ってますよ。
キャラクター設定画の量については、設定画好きとしてほぼ満足できる量&内容だと思います。
メカニック設定画(宮崎駿監督)
目次のページに「メカニック設定は宮崎駿監督が担当」とあったので、「これはきっと戦闘機のメカ設定画が山ほど載ってるに違いない!!」と期待したのですが…。
二郎少年の夢の中で乗っていた空想飛行機とか、カプローニ設計の飛行機のメカニック設定画は載ってました。
でもそれ以外のメカの「線画」はほとんどなかったですよ。
劇中クライマックスで飛んだ二郎の飛行機は、九試単座戦闘機。さすがに九試単座戦闘機のメカ設定は載ってるかなと思ったのですがなかったですね。
七試艦上戦闘機は劇中でも試験飛行後に墜落して、零式艦上戦闘機は劇中の現実世界を飛んだわけではないので、それぞれ出番は短くて。そういう動いているとはいえ登場シーンが短い機体はメカ設定がないかもね、くらいの予想はしていたのですが。
そんなかんじで、想像してたよりメカニック設定画は少ない印象でした。「メカ設定画(三面図とか)」好きの人には物足りないかな?
けれども飛行機・機関車などの絵は多いですね。設定画ではなくて、背景美術や本編画像の絵が多いです。
個々のメカについての絵の数は少ないのですが、劇中に登場するさまざまな飛行機・機関車・船など多数の画像が紹介されてます。
「雑草という草はない」というお言葉がありますが、メカに詳しくない私には劇中に登場する飛行機、機関車も劇中で名前が出たもの以外は大雑把に「飛行機」という認識。でも、この本にはちゃんと名前が載ってます。
メカ設定・背景美術・本編画像のうちのどれかの絵+機種の名前+簡単な解説などが載っているので、わかりやすいです。
映画と見比べながら確認したわけではないですが、劇中に登場したメカの画像はかなり掲載されているのではないでしょうか?
アンリオ練習機とか、ポリカルポフI-15とか。劇中で飛んでいるものもあれば、飛行場の場面で描かれていただけのものとか、様々ですが。
画像は映画本編のストーリーの流れに沿って配置されているので、ほぼどの場面で登場した機体かわかるかと思いますよ。
「設定画」にこだわらず、「劇中に登場した機体の画像」が見たい人にはいいと思います。
背景・美術 draft: false
美術監督の武重洋二さんの美術ボードとか背景など。
風景などはもちろんですが、動いていないメカ(飛行場の停止中の飛行機とか、格納庫内の飛行機とか)などは背景として描かれているので、そういう絵がたくさん載ってます。
もちろん背景・美術はフルカラーで掲載。
宮崎駿さんは雑誌「Cut」の「『風立ちぬ』3万文字徹底インタビュー」で「今あの頃の飛行機を現実に飛ばしたとしても、当時の風景はもう残っていないから当時のままの絵は撮れない」みたいなことを言ってたと思います。
アニメ「風立ちぬ」の中で描かれている背景・美術は美しくて。自分の生まれる前の風景であってもどこか懐かしい感じがする絵が多いですね。
私が町育ちのせいか、自然描写よりも、少々雑然としていても人の生活を感じる町の風景の方が好きです。そういう意味でも、この本の背景・美術はいい感じに見えます。
スタッフインタビュー
スタッフインタビューは以下のメンバー。
- 作画監督:高坂希太郎さん
- 美術監督:武重洋二さん
- 色彩設計:保田道世さん
- 撮影監督:奥井敦さん
宮崎駿監督の文章は、「企画書(「映像についての覚書」含む)」しか載ってません。
宮崎駿監督のインタビューが読みたい人は、「Cut」2013年9月号の「『風立ちぬ』3万文字徹底インタビュー」か「SA (スケールアヴィエーション) 」2013年9月号あたりがよいかと思います。
「Cut」の宮崎駿監督インタビューは3万文字というだけあって、「風立ちぬ」全般に関するインタビューで内容豊富。
「SA」の方は、宮崎駿監督と模型メーカーのファインモールド社の社長との対談。文字数は「Cut」にはおよびませんが、飛行機というか戦闘機についての話がメイン。月刊「モデルグラフィックス」に連載されていた「風立ちぬ」のマンガも抜粋で載ってます。
しかしプラモデルに興味がない人には、それ以外読むところがないというのが難点かも。
SCALE AVIATION (スケールアヴィエーション) 2013年 09月号
[雑誌]
アフレコ台本 draft: false
アニメ映画「風立ちぬ」の完成アフレコ台本が最初から最後まで全部載ってます。
読めばストーリーは勿論のこと、全セリフもわかります。映画を見た後から振り返るのにちょうどいいですよ。
カラーページには、アニメ本編の画像もたくさん載ってますから。
ざっくりまとめ
あと、「風立ちぬ」の映画ポスターやバナー画像もありますし、アニメの製作工程のようなメイキング説明もあります。
以上。内容についてはこんなかんじですね。
キャラクター設定、メカ設定、背景美術などのアート系資料がたくさんあって、アフレコ台本と本編画像からアニメ本編を振り返ることもできる本。
アート本ということで、インタビューがやや弱いのが難点といったところかな。
宮崎駿さんのイメージボードが18枚なので「もっと風立ちぬに関して宮崎駿さんの絵が見たい。少々ラフでもいい。」という人は、絵コンテ集もいいかもしれません。
「崖の上のポニョ」同様、「風立ちぬ」の絵コンテもカラー(水彩で一部着彩)ですから。
今回はロマンアルバムが特別版になってて、どっちにしようか迷ってる人がいるでしょうね。
個人的な意見としては、本編画像、脚本、背景美術重視なら「ジ・アート」。原画とインタビューにこだわるなら「ロマンアルバム」かな。
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追記:最近NPO法人の日本禁煙学会が「風立ちぬ」の喫煙シーンについて、「喫煙シーンの描き方」に対する要望書を出したという話題がありました。
喫煙シーンに関しては作画監督の高坂希太郎さんが、この本で少し触れてます。もちろん要望書が出る前のインタビューですから、要望書に対する答えではありません。
これを読む限り、上手すぎたってことでしょうね。高坂さん自身が非喫煙者なので「非喫煙者が想像する喫煙のかっこよさ」みたいな作画になってしまったということでしょう。
詳しく知りたい人は、この本を読んでみてください。
- 出版社・発売時期:徳間書店(2013-7-24)
- ページ数:277
- 好感度:(5)
- アニメ映画「風立ちぬ」アートブック
- 宮崎駿監督のイメージボード
- キャラクター設定
- 美術ボード、背景美術
- スタッフインタビュー
- 映画用ポスター、バナー画像
- アフレコ用の完成台本
- …etc.