商業誌として出せないワケありのものが同人誌になるんだ…そんな風に思っていたころが私にもありました。でもこの「それをなすもの」を見ると、商業誌と同人誌の壁は「売れる企画として通るかどうか」くらいのものだったんだなーと思いますね。
「それをなすもの『新世紀エヴァンゲリオン』コンセプトデザインワークス」は角川書店が出したムックですが、同人誌に詳しい人なら「あれ、同じ名前の同人誌がなかった? 」と思うかと。そうなんです、「それをなすもの EVA SHADOW WORKS」という同人誌があります。作者は同じく山下いくとさん。同人誌が先で、後から商業誌が発売されました。
同人誌の名前を商業誌につけるなんて…と思ってたら、同人誌「それをなすもの EVA SHADOW WORKS」の内容を200%増しでカバーしている内容、なんだそうです。つまり同人誌の内容にいろいろ追加して商業誌で出したワケ。…一世を風靡したエヴァンゲリオンだからこそ通った企画だと思いますが、反則技ですよね。
この本はメカニックデザインの山下いくとさんのエヴァ・デザインラフ、カラー・イラストに、きお誠児さんのデザインワークスそして、同人誌でのみ語られそうな裏話が、商業誌仕様の装丁と手ごろな価格で手に入るいろんな意味でお得な本です。
- カラーイラスト集
山下いくとさんのエヴァンゲリオンのメカ・メインのイラスト集です。2つ折のカラーピンナップや同人誌「BP EMISSION」など山下いくとさんが手がけた同人誌の表紙イラスト、LD-BOXやゲームの宣伝イラストなど。
ニュータイプ100%コレクションの表紙の彩色見本は、完成版と比べると面白いですね。
- コンセプトデザイン
タイトルロゴ案やTV版エヴァ各機のラフデザイン、エントリープラグ内部、武器など。山下いくとさんの細かい解説がついてます。
おそらく元の原稿がラフメモ的なものだったのでしょう、線が細いというか…絵自体は大きいですがちょっと見づらい印象です。でも解説は詳しくて面白いですよ。
別ページでゲーム用のメカデザインもまとめられています。ゲームは何作か出てたので、どのゲームなのかよくわかりませんが「震電」「雷電」などのラフデザインから決定稿までです。
初期ラフデザインの解説の中でスターザンSのゴリラスターの名前を見るとは…。そういえばこの絵、全体的なフォルムが似てますよね。
- デザインワークス
美術設定に参加した、きお誠児さんのページ。ネルフ(作戦司令室、コンソールデスク)、ジオフロント(耐圧外壁、ビル降下システム)、第3東京市などの美術的な設定から、自動車、航空機、エヴァのD型装備ほか。
機能に絡めたデザイン解説がついているので、SF的なデザイン設定に興味のある人には面白いと思いますよ。
- テレビ版「新世紀エヴァンゲリオン」最終話プロット
読み物ネタ。エヴァンゲリオンの庵野秀明監督は、アニメ制作の初期段階で各制作スタッフにアイディアをつのっていたそうです。
この本で紹介されているのは、山下いくとさんが出した最終話のプロット。私が見たところテレビ版の最終話とは似ても似つかない内容ですが、旧劇場版ではちょっとだけモチーフが使われているかなー?(いや、かなりムリがあるかも?)という印象。
テレビ版のシンジは最終話でここまで成長しなかった…、いやそれよりテレビ版ゲンドウは泣かないよー。そんなに自分をさらけだせるキャラじゃないよ!
まああくまでプロットですから。タイトルにも「オリジナルストーリー」と書かれてます。裏話ネタとしてはなかなか面白い内容でした。
- 劇場版の一案
こちらも旧劇場版のために山下いくとさんが出したストーリー案。ええぇぇぇー!! えらいことになってます。
アスカ多め、とかそういうことじゃなくて、とにかくオリジナルストーリー。まさに同人誌用のコンテンツです。
それから劇場版用に作った量産型EVAデザイン(お蔵入りになったもの)。こういうトラブル(経緯の詳細アリ)について、デザイナーさんが自分の立場と意見をきっちり主張をするのも同人誌ならでは。
- インタビューほか
山下いくと×きお誠児対談。どちらもデザイン系の人なので、デザイン話がメインです。
あと、庵野秀明監督、鶴巻和哉さん、貞本義行さんの寄稿文など。3人合わせて1ページ。
メカ好きの見どころとしてはラフデザイン集。美術のSF的な設定面に興味ある人にもいいと思います。
最終話プロットとか劇場版案などは、あくまで一アイディアというか、没案なのでかなり人を選ぶ内容でしょうね。
全体的に見て、大手の角川書店が出すような内容ではないので、さすがは元同人誌という印象です。でもファンにとっては商業誌の手ごろな値段で手に入るのはうれしいと思います。
かなり読者を選ぶけれど、メカ好きかつ、ありきたりなエヴァンゲリオン・ムックには飽きた人にはいいかも。
- タイトル:それをなすもの―「新世紀エヴァンゲリオン」コンセプトデザインワークス (Newtype EVA BOOK)
- 出版社・発売時期:角川書店(1998-03)
- ページ数:143
- 総合評価:
内容紹介
- 「新世紀エヴァンゲリオン」のメカデザイン・ラフなど
- 版権イラスト集(山下いくと)
- エヴァ各機ラフデザイン
- テレビ版最終話プロット
- 劇場版案「彼方の待ち人」
- 美術デザイン
- …etc.
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