てっきりアニメ「Yes!プリキュア5」「プリキュア5GoGo!」のスタッフインタビュー本だと勘違いしてました。「プリキュア シンドローム!〈プリキュア5〉の魂を生んだ25人」。
発売が2012年3月。「プリキュア5GoGo!」が2009年1月放送終了だから、かれこれ3年。「Yes!プリキュア5」終了からは4年後の発売。プリキュア関連本の中では、比較的新しい部類です。
縦18.8cmというわりと小さ目の縦長本。B6サイズになるのかな? 巻頭12ページがカラー。それ以外はモノクロ。本に厚みがありますが、一般のインタビュー本とは一味違って見掛け倒しです(笑)。
「Yes!プリキュア5(とGoGo!)」の熱心なファンであると自負する駆け出しライター・加藤レイズナさんが著者。プリキュア関係者にインタビューをしてプリキュアの魅力にせまるという本。
amazonの内容紹介では「構想3年、制作1年、総インタビュー時間200時間を超える取材」「貴重な図版が満載!」と書かれていますが、いかんせん著者の取材の腕が未熟。新人研修みたいなノリ。
そう、私は勘違いしてました。この本はスタッフインタビューも載ってますが、それは主役ではないんですね。まさに新人研修。主役は著者でした。
プリキュアのインタビューは刺身のツマというか、ドラマの背景みたいなもの。
無名の新人ライター奮戦記なんてこの出版不況に売れませんものね。プリキュアのインタビューに情熱をかける駆け出しライター本という体裁をとったわけですね。
「プリキュアぴあ」がバカ売れしたなんて話もありましたから、2匹目のドジョウを狙ったんですね。なるほど納得、大人の事情。ということで、その辺を考慮して感想を修正しました。
では、とりあえず内容紹介。個人的に気になった点を重点的に。
- 川村敏江さん描き下ろしポストカード3枚
「Yes!プリキュア5」「プリキュア5GoGo!」キャラクターデザイン担当・川村敏江さんの描き下ろしポストカード3枚が付録。ちなみに川村さんは「スマイルプリキュア!」のキャラクターデザインも担当しています。
ポストカードのイラストは全て描き下ろし。
- 1.表紙イラスト(「Yes!プリキュア5」キュアドリーム、キュアルージュ、キュアレモネード、キュアミント、キュアアクア)
- 2.裏表紙イラスト(「プリキュア5GoGo!」キュアドリーム、ミルキィローズ、キュアルージュ、キュアレモネード、キュアミント、キュアアクア)
- 3.妖精たち(ココ、ナッツ、ミルク、シロップの人間姿+妖精姿)
表紙イラストのみ色鉛筆で彩色したようなカラー。それ以外はモノクロ線画(いわゆるイラスト原画状態)。
ココ、ナッツの人間バージョンの絵が…放送当時とちょっと違うような印象。放送終了時から数年たってますから、多少絵柄が変わってしまうのは仕方がないかも。みるく(人間体)がかわいく描かれているので個人的には「イイ!!」と思ってます。
3枚のうち1枚はカラー。でもセル塗り調のイラストではないので、好き嫌いがあるかもしれません。下の表紙絵の画像を参考にしてください。
私は線画好きなので2枚のモノクロイラストも大歓迎。むしろこの3枚のイラストの中では線画のイラスト2枚がかわいい絵だと思います。でも「カラーじゃないと嫌! 」という人には残念かもしれません。
個人的にはこの本では、ポストカードが一番のおススメです。
- 無節操でとりとめないスタッフインタビュー
-
とりあえず、著者が話を聞いた取材対象は以下の方々(敬称略)。
- 鷲尾天プロデューサー
- ABC 亀田正之、ADK 鶴崎りか
- バンダイ 高橋真樹、渥美真樹
- シリーズディレクター小村敏明
- キャラクターデザイン川村敏江
- シリーズ構成 成田良美
- 美術 行信三
- 声優 三瓶由布子、竹内順子、伊瀬茉莉也、永野愛、前田愛、仙台エリ
- 作詞家 青木久美子
- 作詞家 只野菜摘
- 歌手 工藤真由、宮本佳那子
- 作曲家 佐藤直紀
- プリキュアオールスターズDX監督 大塚隆史、作画監督 青山充
- 脚本 村山功
- 漫画家 上北ふたご
- 製作担当 坂井和男
人数は多いので、読後は「たくさん読んだ! 」という気分にはなれます。
ですが本は小さく、行間は広めで余白も多め。本の外見から受ける印象より、中身は薄いです。
取材した音声をそのまま文章にしたようなインタビュー集。
ポジティブに表現すれば「ライブ感がある文章」と言えるかもしれないけれど、読んだ印象を率直に言うと「手抜き感あふれる文章」。
テレビのトーク番組でも一見適当に会話しているように見えて、ちゃんと放送作家(構成作家)がシナリオ書いてます。トークを興味深く読ませるには技術が必要。
この本の場合、トーク内容は無節操。「(プリキュアファンの)駆け出しライターにとって興味があることを聞く」という基本路線で、自由と言えば聞こえがいいですが取り留めない内容。段取りが悪く話がいったりきたりしている箇所も。
それから不安な点。どうも著者は語り手が「その場のノリで『盛った』言葉」に大いに食いついている印象があります。会話の非言語部分が補われていないので、どこまで文字通りに受け取っていいのやら。
さらに著者の取材の基本姿勢が相手に迎合のせいか、読んでいて妙な疲労感が。
各インタビューで基本的な仕事話を聞いた後、ページが余ればムダな穴埋めトーク。もしくはページが足りないのに薄い情報を詰めこんだ結果、要点がない。
私に限って言わせてもらえば「プリキュア」みたいな作家性の薄いアニメ作品で、作り手の人間性も現場の雰囲気も興味ありません。会社の雰囲気がどうだろうが、プロデューサーが腹黒だろうが、反社会的な行動でもとっていない限りは興味なし。だいたいPDはどの作品でも腹黒い大人ですよ(笑)。
私が知りたいのは作品のこと。脚本についての疑問や、デザイン・演出・作画の話。おもちゃ・放送局などアニメ作品の関連ビジネス事情。そういう「作品を視聴しただけではわからない、けれども作品の作りに影響する裏事情」が知りたい。
しかしながら駆け出しライターの著者は、プリキュアという作品に何の疑問も感じていない様子。「話し手の語る事=プリキュアの魅力」と思い込んでいるフシがあり、独自の探究心は薄いです。
作り手側の宣伝トークを鵜呑みにして何も考えないあたりは、ファンの悪い面が出ています。
そのあたりも含めて、この本の著者の意識と私の感覚のズレを大きく感じます。
とはいえ、著者が話を聞いた人数は多いです。質より量にも利点はあります。それぞれの情報を有機的に組み合わせて自分で再構成する気があれば、それなりに楽しめます。
インタビュー自体はソースが公式スタッフですから、ネットの出所不明な情報よりは使えますよ。
例えば、3人のプロデューサーとバンダイ社員の話から情報を再構築すれば、「プリキュアが丁寧に情熱をこめて作られた作品だから、大人の鑑賞に堪える」というのは絵空事に過ぎないとわかります。
キレイ事に終始する宣伝トークの裏の現実。年間100億円以上の関連玩具を売り上げるための現実も、読み取ろうとすれば読み取れます。…かなり遠回りが必要ですが。
二次元好きの大人のプリキュア・ファンも、プリキュア・アンチも、夢から覚めるかも。「プリキュア万歳! 」な著者のノリとダラダラトークに耐えて、読み解いてみてください(笑)。
- 川村敏江さんのインタビューについて
川村敏江さんの「Yes!プリキュア5」に関するキャラクターデザインの話題は、「メイキングボックスvol.2」や「プリキュアぴあ」でも読むことが出来ます。
キャラクターデザインに関してだけなら「メイキングボックスvol.2」の方がテーマが明確。情報のまとめ方見せ方、説明のための資料の選び方も的確でわかりやすいです。
ちなみにこの「プリキュアシンドローム」も参考資料として「メイキングボックスvol.2」を挙げているためか、情報の切り口も内容もかなり重複してます(笑)。
インタビューについては「メイキングボックスvol.2」で必要十分。この本にはほぼ同じ内容しか載っていないし、追加部分は蛇足です。
川村敏江さんのキャラクターラフで「メイキングボックスvol.2」にはなく「プリキュアシンドローム」にはある絵としては、ミルキィローズ(美々野くるみ)の初期ラフ、変身コスチューム初期ラフ、スチル案ラフくらい。
くるみの初期ラフは鉛筆のタッチのせいか、少し前のいのまたむつみキャラみたいに見えてかわいいです。スチール案も5人の制服姿の集合絵で、いかにも川村さんらしいラフ絵。
逆に「プリキュアシンドローム」には、かれん・こまち・りんの初期ラフは載っていません。5人分の初期ラフが見たい人は「メイキングボックスvol.2」の方がいいかも。
巻頭のカラー12ページにはキャラクターや変身アイテムの設定資料が載ってますが、本自体が小さいので量は少なく感じます。5人の私服設定も少し載ってますが、それ以外の基本資料は「プリキュアぴあ」に載ってる設定資料と大差ない印象です。
ナイトメアの初期ラフや決定稿は載ってないし、本自体が小さいので図版の量は少なく感じます。「貴重な図版が満載!」というアオリ文句に期待しすぎないように。
キャラクターデザインについてよく聞かれそうな話は「プリキュアぴあ」にもあるし、ぴあに載ってる川村ラフ画と内容も少し重複してます。入門者には「プリキュアぴあ」の方がおススメかと思いますよ。
参考記事1:メイキングボックス「Yes!プリキュア5GoGo!」
参考記事2:プリキュアぴあ 感想
- その他、メイキング資料でめぼしいもの
小村SDインタビューで紹介されているのが、以下の資料。
- 「Yes!プリキュア5」監督のナイトメア(ギリンマ、ガマオ、アラクネア等)の初期案
- 「Yes!プリキュア5」プリキュア変身バンク絵コンテ7枚
- 「Yes!プリキュア5」プリキュア・ファイブエクスプロージョン絵コンテ3枚
- 「Yes!プリキュア5」ルージュタクト絵コンテ1枚
- 「Yes!プリキュア5GoGo」必殺技案
美術の行信三さんインタビューで以下の資料。
- 「Yes!プリキュア5」の駅外観(本編未使用)
- かれんの別荘、かれんの家の植物園。ともに設定線画
- 「Yes!プリキュア5」ナッツハウス
- サンクルミエール学園のレストラン
- 「Yes!プリキュア5」ナイトメア社屋
- 「Yes!プリキュア5GoGo」エターナル総本部外観
残念ながらどれもモノクロ。絵コンテや線画はモノクロでいいんですけどね。それ以外は残念。
ついでにそれぞれの図版についている著者のコメントも残念。読者は素人が絵を見ただけでわかることや、著者の憶測じゃなくて、監督や美術さんのコメントが知りたいのに。資料とインタビューの絡め方が下手。
小村SDインタビューを読んだ後、「Yes!プリキュア5」の変身バンク映像と絵コンテを比較してみました。「ハートキャッチプリキュア!」みたいによく動く派手さはないけれど、堅実でよく計算された変身バンクだと感じました。
監督の話は素直に読むとやる気がない人のように見えますが、形を変えた謙遜と言うかこういう形で話を盛る人は結構います。感情の言葉を差し引いて、結果と合わせて判断するとわかりやすかと。
そういえばキュアレモネードの変身バンクが、掲載されている絵コンテと完成映像では少し違ってますね。
話の流れでそのあたりつっこめそうなのに…。著者は作画や演出に全然興味なさそうだから残念無念。
- 加藤メモ
この本には、プリキュア好きの駆け出しライターの成長記みたいなエッセイがついてます。それが加藤メモ。
この本を読むかぎり著者の印象は
- 1.ライター経験未熟
- 2.話下手
- 3.社会経験・職業経験が少ないからか、年のわりに感性がやや幼稚
という三重苦。ライブ感あるインタビューからはそれが明確に読み取れ、いろんな意味で「(この人には)まだちょっと荷が重いのでは? 」と思わせます。むしろ気の毒な部類。
ですが、幻冬舎の特設サイトの書評では「そういう新人がプリキュアを作っている人々の熱に触発されて云々…」とのこと。
この本を読む限り、著者は受身なだけの一般ファン。客観的なライター目線でもないし、中途半端な印象が否めません。
まあこの著者さんを「一般ファン」と言い切ってしまうと、ある意味で他の「大きなお友達」が気の毒かもしれませんが。
このエッセイによるとこの本の目的は、「インタビューでプリキュアの魅力を解き明かし、自分がどこに惹かれたのかも突き詰めて行きたい」とのこと。それなのに随所に感じる受身の姿勢と探究心の欠如。
普通のインタビュー本よりも、著者が前面に出た作りになっているこの本。
著者の考え方や姿勢に共感できない人には、この本を読むのに苦痛を感じるかもしれません。
「プリキュアの制作インタビュー集だと紹介されていたのに、駆け出しライターのエッセイを抱きあわせで買わされた」というガッカリ感。
「誰にだって若い未熟な時代はある」とは思います。けれどネットでタダで読む文章ではなく、お金を払って読む本ですから。厳しいようですが、言わざるをえません。
はい、だいたいこんなかんじです。
これをプリキュア・ファン向けのインタビュー本に見せかけて売るとは、やるな幻冬舎(笑)。絶対に許さない(プリキュア的なノリで(笑))!!
そんなわけで、このダラダラしたかんじこそがこの本の「売り」。合わない人は読むなって事でしょう。何にせよ残念な本です。
一般ファン向けというには内容が玉石混交でムダが多いし、コアなマニアには既に知っている情報も多く掘り下げも浅く物足りない。
「プリキュア5に関するインタビューは全く読んだことがないから、幅広く量が欲しい」という人で「とにかく公式スタッフのインタビューであれば、ソースとして使える。情報の整理・再構成はこっちでやる 」くらいの気合と探究心あるマニアなら楽しめそう。
もしくは「プリキュアに関するものならコレクターグッズとして何でも買います!!」くらいの気合がある人向きかな。
あとは「川村女神のファンだからポストカードが本体。本はオマケ」くらい言い切れる人とか。
なんにせよ、一般的なインタビュー本ではない事を覚悟しておけばガッカリ度も少なくて済むと思います。
- タイトル:プリキュア シンドローム!〈プリキュア5〉の魂を生んだ25人【描き下ろしポストカード3枚付き】
- 出版社・発売時期:幻冬舎(2012-03-09)
- ページ数:590
- 総合評価:
内容紹介
- 「Yes!プリキュア5」「プリキュア5GoGo!」のインタビュー本
- 鷲尾天プロデューサー
- ABC 亀田正之、ADK 鶴崎りか
- バンダイ 高橋真樹、渥美真樹
- シリーズディレクター小村敏明
- キャラクターデザイン川村敏江
- シリーズ構成 成田良美
- 美術 行信三
- 声優 三瓶由布子、竹内順子、伊瀬茉莉也、永野愛、前田愛、仙台エリ
- 作詞家 青木久美子
- 作詞家 只野菜摘
- 歌手 工藤真由、宮本佳那子
- 作曲家 佐藤直紀
- プリキュアオールスターズDX監督 大塚隆史、作画監督 青山充
- 脚本 村山功
- 漫画家 上北ふたご
- 製作担当 坂井和男
- …etc.
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