アストリッド・リンドグレーンの「長くつ下のピッピ」のアニメ化する企画があった、というのは以前雑誌か何かで読んだ気がします。
演出・高畑勲さん、場面設計・宮崎駿さん、キャラクターデザイン・小田部羊一さんといえば、世界名作劇場の「母をたずねて三千里」のスタッフメンバーですね。
あの当時「長くつ下のピッピ」といえば、実写版のインゲル・ニルソンで声はキャロライン洋子さん…というイメージ。「長靴下のピッピって知ってるかい? ステキでカワイイ私の事よ~♪」の主題歌のアレですね(笑)。
どうもあの実写版が先で、アニメ化企画はその後みたいですね。ロケハンに行って、パイロットフィルムを作って…と進んだものの、結局リンドグレーンの許可がおりずに「長くつ下のピッピ」の企画はお蔵入り。
その結果、アニメ制作にむけて作られたたくさんのメイキング資料が残された…という話。そのメイキング資料を1冊の本にまとめたのが、この本「幻の『長くつ下のピッピ』」。
時期的には東映動画「太陽の王子ホルス」の後で、世界名作劇場「アルプスの少女ハイジ」の前。
作品にはならなかったけれど、このときの経験やアイディア等は「アルプスの少女ハイジ」他の宮崎駿作品で使いまわされているようです(笑)。
どうして今頃になってその資料を本に? おりしもリンドグレーン原作の「山賊のむすめローニャ」が宮崎吾郎監督で、秋からNHK BSプレミアムで放送開始というこの時期に。
どうせそんなことを考えるのは…と思ったら、やはりこの本の企画者は鈴木敏夫プロデューサーでした(笑)。
それはさておき、「幻の『長くつ下のピッピ』」の内容です。
イメージボード:宮崎駿(28ページ)
イメージボードは風景だけでなく、キャラクターも描かれていて物語を感じさせる絵もあります。ピッピが住んでいるゴタゴタ荘の内部図解とか面白いですね。
絵は当時(70年代初め)のものなので、やや退色してます。でも絵はいきいきとしていていい感じですよ。
ストーリーボード:宮崎駿(22ページ)
これも当時のイラスト。物語の最初の方のストーリーのために描かれたイメージ画。宮崎駿さんの水彩イメージ画が好きな人にはとても魅力的だと思います。
キャラクターデザイン:小田部羊一(14ページ)
これを見る限り、メインキャラのキャラクターデザインまではあったようですね。
ピッピのデザインはさすがに古い…。なんとなく実写版のインゲル・ニルソンに似てるような、似せてるような…(笑)?
ちなみに表紙に使われているピッピの絵は、かわいい方です(笑)。
キャラクターラフデザイン:小田部羊一(10ページ)
表紙ページには宮崎駿になってますが間違い。正しくは小田部さんであるということで訂正が入ってました。
正直私の目ではどっちの絵か判別できません(笑)。小田部さんの絵と言われれば「(そう言われれば)小田部さんっぽいなあ」というかんじでした(笑)。
覚え書き:高畑勲
ピッピのキャラクター像についてのイメージ説明が中心ですが、その他のキャラクターから、作品の世界観からいろいろ説明しています。スタッフの意識統一をはかるものです
字コンテ:高畑勲
プロットから演出プランを考えて文字にしたもの。絵はありません。これを元に絵コンテを描くというかんじかな。
作画スタッフの意識統一のための文章です。
インタビュー(宮崎駿、小田部羊一、高畑勲)
インタビューはこの本が発売された2014年のもの。宮崎駿さん(9ページ)、小田部羊一さん(4ページ)、高畑勲さん(12ページ)それぞれの単独インタビュー。もう過去の話。今振り返って…というかんじの内容。
当時の仕事の状況や、初めての海外ロケハンの話…その他諸々。ちなみに宮崎駿さんが30代の話。それぞれの個性がはっきり分かれるインタビューでした(笑)。
感想
まるごと1冊、宮崎駿×小田部羊一×高畑勲。ちょっとだけ鈴木敏夫(笑)という本。作品として日の目を見なかったものですら商売にしちゃうのはホントにスゴ腕プロデューサー(笑)。
「宮崎駿さんのイメージボードと小田部羊一さんのキャラクターデザインやラフデザインをたっぷり楽しめて、高畑勲さんの演出字コンテを読みながら脳内アニメーションをお楽しみください」的な内容。
絵柄の古さはあるけれど、当時の絵をそのままたくさん見ることができるというのはファンにとっては魅力的ですね。
絵柄の古さも人によっては懐かしさを感じたり、今風ではないので新鮮味を感じるかもしれません。そのへんは人によって感じ方が異なるでしょう。
「長くつ下のピッピ」の物語の最初の方しかありませんが、それでも巨匠の若い頃の仕事ぶりを見てみたいというファンには楽しい本です。
- タイトル:幻の「長くつ下のピッピ」
- 出版社・発売時期:岩波書店(2014-10-09)
- ページ数:149
- 総合評価:
内容紹介
- 没企画・アニメ「長くつ下のピッピ」のメイキング資料本
- 当時のカラースチル写真10枚
- イメージボード
- ストーリーボード
- キャラクターデザイン
- キャラクターラフデザイン
- 覚え書き
- 字コンテ
- インタビュー(宮崎駿、小田部羊一、高畑勲)
- 「本書の企画者より」鈴木敏夫
- …etc.