THE ART OF コクリコ坂から感想
「THE ART OF From Up On Poppy Hill(コクリコ坂から)」はジブリ映画「コクリコ坂から」のメイキング・アートブックです。
過去のスタジオジブリの「ジ・アート」シリーズ同様、A4縦の大判本。
アニメ制作過程で作成した、イメージボードや美術ボードを中心にメイキング資料がたくさん載っています。
今までの「THE ART」シリーズの本では、本編スチル(きれいな本編画像みたいなイメージでOK)もあわせて掲載されている本もありますが、この「THE ART OF コクリコ坂から」にはカラーの本編スチルはありません。
巻末のモノクロページには「コクリコ坂から」のアフレコ用完成台本もあるので、読めばストーリーはもちろん各キャラクターのセリフもわかります。
アニメ映画「コクリコ坂から」は宮崎吾朗監督作品(第2作目)。宮崎駿さんは企画・脚本での参加。「もう今度こそは宮崎駿さんの絵はポスターに使われたあの絵しか載っていないだろう」と思っていたら、まだ他にも絵がありました(笑)。
この本の11~21ページまでが宮崎駿さんのコンセプトスケッチ、イメージボード、「企画のための覚書」というテキスト。
NHKのドキュメンタリー番組「ふたり『コクリコ坂・父と子の300日戦争~宮崎駿×宮崎吾朗~」は見逃してしまったので、人づてに聞いただけですが、アニメ制作の突破口(か?)になったらしい「鉄橋の上を主人公がタッタッと足早に歩いて登校するコンセプトスケッチ(絵:宮崎駿)」も載ってます。
遠くに船が浮かぶ海を臨み、鉄橋の下から見える市電の線路には、今しもトンネルから出てきたばかりの電車。
あー、この構図。この動作。ラフな絵ですが、たしかにこれはイメージを喚起させられます。
うん、なんだかこういうのを見せられると「吾朗さんも大変だな(苦笑)」と思いますね。
その次のページから宮崎吾朗監督のイメージボードとインタビューあわせて10ページ。さらにキャラクターデザインの近藤勝也さんのイメージボードとインタビューがあわせて10ページ。それ以降のページはストーリーに沿った順序で、さらにイメージボード、美術ボード等掲載。
インタビューですが、三者の文章をこうやって矯めつ眇めつ眺めてみると、立場と考えの違いがよくわかって面白いですね。
ロマンアルバムも毎度濃いインタビューを載せてくれるので期待してますが、まずはこの「THE ART OF コクリコ坂から」の感想。
キャラクター・イメージボード&ラフスケッチ集
「コクリコ坂から」に登場したキャラクターのイメージボードやラフスケッチ集です。
キャラクターは宮崎吾朗監督の絵は初期のイメージのみ。キャラクターデザインの近藤勝也さんの絵がメインです。吾朗監督や近藤勝也さんの解説がついています。
近藤勝也さんのラフスケッチ集はいいですね!! 見てるだけで楽しいです。
水沼史郎いいですね、水沼。近藤勝也さんキャラクターデザインのメガネ男子では、「魔女の宅急便」のトンボ、「海がきこえる」の松野に続く3人目(だと思う)。
ラフスケッチの俊「もう一度言ってみろ! 」、水沼「……海ちゃんはあきらめろ…」の絵とか(笑)、帽子をかぶりなおしている絵とか、白マフラーの絵とか。
リーダーシップのある頼れる知性派。女性に優しくて、男の親友との友情あり。んー、わりと今流行(?)のメガネ男子の路線ですよ。コメントを読むとデザインは苦労したみたいですけど、イメージは伝わってますよ!
宮崎吾朗監督の手によるストーリーの一場面を描いたようなイメージボード(ストーリーボード? )は以前より増えているような印象ですね。
近藤勝也さんのキャラクターのイメージボードはかなり変遷しています。初期は「海がきこえる」のようなリアル系のキャラクターですが、徐々に完成版のようなややアニメ風の絵柄に変わってます。
変遷の理由は吾朗監督のコメントにありますよ。
気になった点。この本はキャラクターのメイキング過程の変遷途中の絵(イメージボード、ラフスケッチ)はいろいろ載っていますが、決定稿が少ない!! というか、ほとんど決定稿が載ってないように見えます。
たとえば、この本に載っている海の服装はほとんどブレザー。当初女性徒の制服はブレザーで設定されていたのですが、とある理由でセーラー服に変更。そのセーラー服の絵が少ない。
「コクリコ坂からビジュアルガイド~横浜恋物語~」にはセーラー服姿の海の絵がいろいろ載っていたので、設定画があることはあるけど「紙面の都合上で割愛」ということでしょう。
もちろん時期的に後期の絵は、服はブレザーでも顔はほとんど決定稿に近い絵。だから服だけ後で変更したのかな? とは思うのですが。
できれば決定稿も載せておいてほしかったところです。俊とか他のキャラも同じように、決定稿は抜けている(?)という印象でした。
ちなみに主人公・海の制服が当初ブレザーだった予定がセーラー服に変更になったのは、宮崎駿さんの「セーラー服希望」を人づてに聞いて、とのこと。近藤勝也さんのインタビューにありました。
え、萌え? たぶん違うと思います(笑)。舞台は横浜だし、やはりセーラー服の方が画面栄えしますからね。
美術ボード、背景画
美術ボードや背景画もたくさん載っています。美術監督(の一人)高松洋平さんのインタビュー1ページ。
「コクリコ坂から」では背景を他社に外注したカットも多かったという事で、いろいろ大変だったようですね。
まあ私は背景美術に関しては「ここが外注カットに違いない! 」とか見分けられる眼力もないし、「スタジオジブリ謹製でなくては! 」みたいなこだわりもないので、わりと楽しめました。
絵には高松洋平さんか宮崎吾朗監督の解説がついているものもあります。
カルチェラタンの建物の外観イメージは宮崎吾朗監督がかなり試行錯誤したみたいですね。初期イメージの2階建てから、フォルムを変えつつ3階建てへと変遷しています。どれも宮崎吾朗監督の手によるものですが、監督は建物は味のあるいい絵を描きますよねー。さすがに本職。
「コクリコ坂から」アフレコ用完成台本
巻末のモノクロページに「コクリコ坂から」のアフレコ用完成台本が全掲載されています。
ストーリーも追えるし、各キャラクターのセリフはこれでバッチリ。
モノクロですが本編画像も抜粋掲載されているので、未見の人も場面のイメージがほどほどにつかめるでしょう。
主題歌「さよならの夏~コクリコ坂から~」や「朝ごはんの歌」をはじめとする各挿入歌の歌詞も載っていますよ。
ざっくりまとめ
と、まあこんなかんじの内容です。
メイキング資料をまとめたとはいえアート本なので、お値段はそこそこします。
「本編画像がカラーでたくさん載っている方がいい! 」という人には不向きです。
逆に「本編はDVDやブルーレイ等で見るからいい。他の本ではなかなか見ることが出来ないラフスケッチや背景美術・美術ボードがたくさんみたい! 」という人にはおススメ。